花と暦
日本の文化・歳時記研究家の広田千悦子さんが伝える、
季節の行事と植物の楽しみかたのエッセイ。第十九話 「立冬のこと」
季節は晩秋から初冬へとうつりかわる道すがら。
二十四節気にも冬という文字が現れて、来年2月4日の立春の前まで続く、冬のはじまりです。

冬が来たよ、と告げられても、南関東ではまだ早いということばに頷くばかり。
もうしばらくは秋のなごりと、冬の兆しが交じりあう季節が続きます。

その一方で、北国では見事な紅葉がそろそろ終わりを迎えて、雪の便りが届いたところもあります。
雪の降る地方のように、秋と冬の境界線がはっきりとしているところでは季節のリズムや趣きもちょっと違うように感じます。

特に10月から11月の晩秋や立冬の頃に、北国と関東を行き来してみるなら一目瞭然。
気温差は想像をはるかに越えて、どんな洋服をきたらよいのかわからなくなることもあります。
とりわけ立冬の頃は、季節の隔たりが大きくて、別の国を訪れた時のような感覚がよみがえることも。
日本が、南北に伸びる縦長の国なのだと実感する時です。

それにしてもこの季節は、花が少なくなってしまう時季だというのに、さほど寂しさを感じないのはどうしてでしょう。
それはきっと、色づく樹々の紅葉の色の力が、しっかりと私達の中ではたらいているからではないかと、密かに私は考えています。

立冬の頃は、まだ小春日和の暖かい日もあります。
紅葉はもちろんのこと、黄色く色づきはじめた柚子や金柑、千両の実を目で追いつつ、ゆっくりと「冬」と「年」を越していくことに向き合います。
今までの日々とこれからの日々。
その両方を、大切にあたためていくための時季がはじまります。
北国の紅葉
私の住む三浦半島の紅葉は、もう少し先になりますが、台風の塩害に傷んだ樹々を見るにつけ、いつものように美しい紅葉はおそらく来年までお預けではないか、という気がしています。
今年は久しぶりに晩秋の北海道を訪ね、一足先に冬を迎える地から、色づく葉をおみやげに持ち帰りました。
あたりを照らすような明るい紅葉に包まれていた北国も、そろそろトーンの落ちた黄土色へまとまり、雪を待つばかり。
今年は北国でもやはり、気象の影響があるというけれど、それを差し引いても、寒暖の差が大きいエリアの彩りは本当に見事です。

絵を描くときに筆で色を置いていくときのように、さまざまな色の葉を並べては、入れ替え、あるいは重ねていきます。
紅、朱色、山吹色、えんじ、と彩り豊かな葉は手をかざすと暖かい火が放つような、温もりさえ感じます。
寒い冬を越えていくために、たっぷり樹々の色を浴びて。
心と身体をあたためてもらいながら、冬の季節へと歩いていきます。

枇杷の花


寒くなっていく中で、力強く咲いているのは、ビワの花です。
冬を越えていくためなのか、花はゴワゴワとした毛に包まれています。
実りを迎える来年の初夏まで、長い時間をかける。
目立たずにひっそりと咲いて実りの準備を着々整えている花は、さまざまなしたくに追われ、気持のリズムが乱れている時に支えてくれるいい薬の花です。
顔を近づけると良い香り。
冬籠りを前のミツバチも忙しなく羽音を立てて、枇杷の花の蜜を運んでいます。
肉厚になった葉は、お日様に干したあと、細かく刻んでお茶にしていただきます。
実際に煎じたものや、ウオッカにつけて作るエキスは、ちょっとした火傷や虫さされの薬になります。

水仙の新芽


青々とした水仙の新芽は、立冬の景色のひとつ。
真っすぐ天を目指すようにずらりと並んで伸びています。
冷たい秋の雨を浴びるごとに、ぐんぐん伸びる様子を見るにつけ、迷いを整頓する力をいただいているような気がします。

17日からはじまる立冬の最後の七十二候、金盞香(きんせんかさく)の「きんせんか」がさすのは、この水仙の花だとか。高い空を目指し、茎を長く伸ばしたその頂点で、可憐に咲く花。
きりりとした姿とその香りが、もうじき冬の扉を開けるのを待ち遠しく思いつつ、楽しむ景色です。

やまのいもの蔓


このあたりでは草紅葉の季節です。
冷たい秋雨に濡れ、横倒しになった草草も色づいて、野菊を引き立てる背景の景色をつくります。
ヤマノイモが蔓をのばし、はっとするような蒲公英色や山吹色に染まる葉が、薮を明るく照らしています。鈴なりに蔓についている零余子(むかご)は、天ぷらや零余子ごはんにしていただきます。
くるりと蔓をまとめて飾り、クリスマスの前夜祭のような気分を味わっています。

大豆の豆殻


2月の節分の邪気払いや、しつらいのための枝豆の殻です。
枝豆を収穫したあと、乾燥させて保存しておきます。
振るとする音が鬼を祓うとか、豆そのものに災いを除ける呪力があると考えられた豆殻は、冬と春の境い目に行う節分の行事の大事な道具です。
まだ先の春の祈りのために、冬のはじまりに準備をする。
円をえがくようにつながっている季節のめぐりを感じながら暮らすことで、自分の内側も動いてきます。

カラスウリの実


毎年、12月の年末が視野に入り始めると、新年への気持がはたらきはじめるのか、縁起のいいものに気持が惹かれます。
草木花の縁起物はいろいろとありますが、美しい色味を見せている朱色のカラスウリの実の中にもあります。
ぬめりのある朱色の実の中身を探ると出てくるのは、ツヤツヤと黒光りした種。
これを大黒天や打ち出の小槌に見立てているのです。確かに縁起が良さそうです。
財布の中にいれておくとよいというから、カラスウリが手に入ったら、まずはその実を飾り、乾ききらないうちにおろして中身を出し、縁起物をいただきます。
「第二十話  小雪へ」
冬に続いて、「雪」という文字が現れます。
一年の大きな節目、年末年始を迎える前のひととき。
残り少ないこよみをめくりつつ、新しい年へとさらに気持は移っていきます。

広田千悦子

広田千悦子

文筆家。日本の文化・歳時記研究家。日本家屋スタジオ「秋谷四季」(神奈川県)などで季節のしつらい教室を行う。ロングセラー『おうちで楽しむ にほんの行事』(技術評論社)、『鳩居堂の歳時記』(主婦の友社)ほか、著書は20冊を超える。

写真=広田行正

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