花と暦
日本の文化・歳時記研究家の広田千悦子さんが伝える、
季節の行事と植物の楽しみかたのエッセイ。第十話 「夏至のこと」
昼が一番長く、夜が短いのが夏至の頃。
いつの間にか遅くなった夕暮れに、ある日突然、気がつき、季節の進みに感じ入る、誰しもそんな瞬間があることでしょう。
不思議なことに、昼が一番長いとなんだか得をしたような気分になるものです。
ついつい、寄り道して外にいる時間も長くなります。

一方で、太陽が頂点を迎えたということは、これから、季節は冬至へと向かう道へと転じるということ。
12月の冬至を想うには、まだまだ気が早く遠い道のりではあるものの、太陽は少しずつ、少しずつ高度を下げていきます。

地上ではこれからが夏本番というのに、すでに天上のピークは過ぎ去ってしまう。
もう昼が短くなっていくだなんて、なんとなく腑に落ちません。
それでも、ちょうど日本の夏至は梅雨真っ最中となり、季節は少し足踏み。
このあいまいな梅雨空のモヤモヤ感の中で暮らすうちに、割り切れない気持ちも、いつしか消えていきます。

ヨーロッパの国々では、盛大で明るい火まつりなどの夏至の祭りが見られます。
古代中国から伝わる陰陽の考え方でいうと、夏至は、まさに陰と陽がぶつかり合う不安定な時期。
この節目には悪いものや災いなどを引き寄せやすいから、それを避けるための邪気払いや呪いもさまざまなものが見られます。

日本では夏至のことを「チュウ」と呼び、半夏生と合わせて田植えの時の目処としたところがありました。夏至に限定した行事や習わしは多くはありませんが、大切な田植えの前、あるいはお盆を迎える前に心身を整え、清める類の習わしが並びます。
一年の半年にあたる6月は過ぎた半年をふりかえり、やってくる新しい半年にそなえる。そんな役割の見えてくる月です。

紫陽花を選ぶ


季節の力を受け取りたくて、あたりを見回すと、数少ない花の時期の中で、やっぱり今年もまだまだ紫陽花から目を離すことができません。
我が家では、毎年しつらう紫陽花守りですが、今年は包む紙にこだわってみました。
いつもは厚めの和紙に包むところを、今年は「かな」用の半紙に。

ふわりふわりと揺らしてみると、舞うような動きのある、薄い軽やかな紙です。
淡い色の紫陽花を選び包むと、かすかに透けて、繊細な紫陽花守りになりました。
色鮮やかで、パワフルな紫陽花も元気を分けてもらえそうですが、今年のテーマは静けさに。
どんなときでも静かに揺らがず、自分の軸を大事にできますように。
そんなふうに過ごしていると、生ける花も、趣のある藍色に近い素朴なヤマアジサイなどに心惹かれていきます。
選ぶ花は、その時の気持やこころの内側をあらわすものなのでしょう。
彩りもかたちも種類が豊富な紫陽花のおかげで、今の自分の気持ちに通じる花色や趣を見定める、そんな機会になるなあ、と感じています。

クチナシのこと


もう少し甘い香りの花の季節は続きます。スイカズラの花は散りましたが、テイカカズラが可愛らしい花を咲かせています。そして我が家のクチナシが今、盛りを迎えています。
クチナシは、クリームのようなもったりとした風合いの白色の花びら。
香気は優しげな初夏のスイカズラと比べるとかなりインパクトがあります。
その勢いは一輪、家に持ち込むと、部屋中どころか二階まで香りが届いてしまうほど。
昭和の古い飲食辞典を開いてみると、肉質で厚みがあり、ざっと茹でて和え物にしたり、刺し身のツマにする、と書かれています。
梅酢につけると紅色になり、味もよいとあったので参考にしてみました。確かに色はほうっとするような美しさがあり、花にしては弾力もあり、食べごたえもあります。
つくってすぐいただくと、やはり強い香りはそのままですが、一日置くといい塩梅になじみ、趣のある味わいのおつまみになります。

もっと簡単に楽しむ方法は、やはりスイカズラ水と同じように作る「クチナシの水」です。
たくさん入れるとむせてしまいますから、一リットルの水にほんの花びら3枚ぐらい浮かべるだけで十分。香りはすぐにうつります。

季節のエネルギーは、陽から陰へと大きく移り変わる、ある意味不安定な時期。
日々の中でも蒸し暑さと涼しさがかわるがわる訪れて、他の季節の節目より身体の負担も多くなるように思います。
ほんのり香る、クチナシの花の水をひとくち、ふたくち、こくりこくり。
この香り水で、夏至のちからを身体に満たし、季節のきりかえをうまく超えていけますように。
「暑」という文字が見えてきました。夏本番の足音が聞こえます。
新暦の七夕の日を迎えて、星々のことも気になりはじめる季節がやってきます。

広田千悦子

広田千悦子

文筆家。日本の文化・歳時記研究家。日本家屋スタジオ「秋谷四季」(神奈川県)などで季節のしつらい教室を行う。ロングセラー『おうちで楽しむ にほんの行事』(技術評論社)、『鳩居堂の歳時記』(主婦の友社)ほか、著書は20冊を超える。

写真=広田行正



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